「男女平等」の家族法の先に 女性を取り巻く問題

世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダーギャップ指数」。
日本は毎年後れを取っており、2021年は156か国中120位と先進国の中では最低レベルです。
このニュースに言及する際、しばしば日本の男女格差を「中東並み」「イスラム並み」という表現を用いるメディアを目にしました。
ランキングを見てみると、イスラエル(60位)とアラブ首長国連邦(72位)を除けば、129位のエジプト以下、下位には中東・北アフリカ地域の国ぐにが並びます。
ここではどちらがよりひどい、どちらがマシだ、という議論はしませんが、少なくとも「良くない」という点に疑う余地はないでしょう。
モロッコはイスラム教の国ぐにの中でも比較的に寛容とされていますが、2021年の順位は144位でした。
今回は、そんなモロッコにおける家族法の改正と女性の貧困を取り上げ、女性差別について考えたいと思います。


国際女性デー(3月8日)を祝うパネルの前で記念撮影をする女性。



モロッコにおける家族法の改正
現国王であるモハメッド6世は、女性の権利について三つの進歩的な改革を成し遂げたといわれています。
それが、家族法の改正、国家の経済発展への女性の包摂、女性聖職者の組織化です。
その中でも特に大きかったのが、2004年に成立した改正家族法でした。

モロッコではそれまで、女性の権利を制限し、女性を未成年者として規定する「ムダッワナ」と呼ばれる家族法が使われてきました。
これはイスラム法(シャリーア)に基づくもので、独立翌年の1957年に男性のみによって立案・作成されたものです。
一夫多妻制の容認や女性からの離婚の申し出はできないなど女性にとって差別的な内容で、フェミニストらが声を上げ続けていました。

(写真と本文は直接関係ありません)



1999年に即位したモハメッド6世国王は次のような声明を発表し、男女格差の問題に取り組む姿勢を明らかにします。
「栄光に満ちた我々の宗教が女性に尊厳と正義を授けているにもかかわらず、国民の半数にあたる女性が、自らの権利を侵害され、不正や暴力や周辺化によって苦しむなかで、どうして社会が発展を遂げられようか」(*)
そして2004年に制定されたのが、男女平等を原則とする新家族法です。

主な内容としては、
、 ・ 一夫多妻制の厳格化(なくなったとはいえませんが)
・ 女性からの離婚の申し出が可能になったこと
・ 女性にも財産権を認めたこと
・ 女性の婚姻年齢の引き上げ(15歳から男性と同等の18歳に)
などが挙げられます。


この家族法の改正は実際のところ、保守的な人びとに抵抗をもって迎えられました。
新法の履行に抵抗する保守的な男性裁判官が権利を行使しようとする女性を妨害したり、あるいは女性自身が抗議運動を行ったりすることもあったそうです。
とはいえ、多少なりとも女性の権利を保障したことはたしかであり、モロッコでフェミニズム運動を行ってきた女性たちにとっては、重要な勝利として捉えられました。


離婚の権利と貧困
あの人は、ハシシ(大麻)を吸って、働きもせずに寝てばかりでした。嫌になったので離婚して、本当に気が楽になりました」
モロッコ北部に住む40代の女性は、そう言ってほっとしたような笑顔を見せました。
彼女が離婚したのは6年ほど前。元配偶者は、彼女が現在7歳になる娘を出産したときも、大麻で逮捕されて服役していたといいます。

女性の手に離婚の選択肢があるということは、女性が自分自身の人生を選択することができるということ。
家族法改正のあと、彼女のように離婚を選択できるようになった女性は増え、女性からの申し出による離婚件数は増加しました。

一方、多くの国でみられるように、いわゆるシングルマザーは貧困率が高い傾向にあります。
この女性は高校までは出たものの、モロッコで広く話されているフランス語を解さないため正規の仕事にはつけず、賃金の安いインフォーマル・セクターで働いていました。
また、離婚して3人の子どもを育てる別の40代の女性は、週7日で家政婦として働いてやっとのことで生活費を稼いでいました。

(写真と本文は直接関係ありません)



モロッコではこれまで、そして今でも、「女性は家の中」という家父長制に基づくジェンダー規範が強固です。
都市部では1930年代から働きに出る女性が増えましたが、そのような女性の労働は家政婦や農地・工場の単純労働者といった低賃金労働であり、あくまで「家計の補助」にすぎませんでした。
それは現代にも続いており、特に十分な教育を受けられなかった女性には、彼女自身が大黒柱として稼がなければならないとしても、「家計の補助」用の低賃金の仕事しか見つけられないという実情があるのです。
それが、シングルマザーや単身の女性の貧困につながっています。

このような女性の貧困は、日本でも同様に起きています。
男女平等が少しずつでも進んでいる今、女性を誰かの「補助」としてみなすのではなく、尊重されるべき一人の「人間」とみなした社会設計が必要なのではないでしょうか。


(参考文献)
* ザヒア・スマイール・サルヒー編/鷹木恵子,大川真由子,細井由香,宇野陽子,辻上奈美江,今堀恵美訳,2012,『中東・北アフリカにおけるジェンダー――イスラーム社会のダイナミズムと多様性』明石書店.




2021年6月17日