モロッコの言語事情

今回はモロッコの言語事情について紹介したいと思います。

モロッコは、六つの言語が話されている国と言えるでしょう。
正則アラビア語(フスハ)、アラビア語モロッコ方言(ダリジャ)、ベルベル語、フランス語、スペイン語、
そして英語です。

まず、国としての公用語は、アラビア語とベルベル語。
ここでのアラビア語とはフスハのことで、ベルベル語はアトラス山脈に暮らすベルベル人が話す言語です。
このフスハは主に公的な場や読み書きにおいて使われる言葉。
一方、モロッコ人は、普段の会話では方言であるダリジャで話します。

フランス語が広く使われているのは、モロッコが1956年の独立までフランスの植民地だった影響です。
現在も義務教育で教えられており、教育を受けた人であればフランス語を話すことができます。
町の看板なども、フスハとフランス語、そして時々ベルベル語が併記されています。


          上からアラビア語、ベルベル語、フランス語で「モロッコ王国」と書かれている。

スペイン語は、主に北部の町タンジェなどで使われています。
これは、北部がかつてスペインに支配されていた名残で、フランス語よりスペイン語を理解する人も少なくありません。

英語は言わずもがなでしょう。国際化の流れを受け、英語を話せる人は増えています。

さて、最初に「六つ」の言語と書きましたが、ここで同じアラビア語であるはずのフスハとダリジャを区別したのには理由があります。
というのも、ダリジャはモロッコ独特の方言だからです。

アラビア語には、エジプト方言、シリア方言など、地域ごとに方言(アンミーヤ)があり、大体はお互いに理解することができます。
一方、ダリジャはあまりに独特すぎて、モロッコ人は口を揃えてこう言います。
「モロッコ人はすべてのアンミーヤを理解できるけれど、他のアラビア語圏の国の人はダリジャを理解できない」

その一因として、ダリジャにはフランス語の単語が元になった言葉があることが挙げられます。
たとえば、フスハで車は「サヤーラ」。
一方、ダリジャでは「トモビル」。これは、フランス語のautomobileがなまっています。
さらに、モロッコ人はダリジャとフランス語をミックスして話すことも多々。
モロッコ人同士がダリジャで喋っている時も、時々フランス語の単語が自然に混じっているのです。
確かにこれでは、とりわけ非フランス語圏のアラビア語話者がダリジャを分からなくても仕方がないなあ、
と思ってしまいます。
(地理的に近いアルジェリアやチュニジアとは、少し似ているそうです。)

田舎のほうや高齢の方になると、識字率も高いわけではなく、ダリジャもしくはベルベル語しか話せない、
という人もいます。
しかし、教育を受けたモロッコ人の基本スペックはやはりフスハ+ダリジャ+フランス語+英語のマルチリンガル。
人によって、ここにスペイン語やドイツ語、日本語など他の言語が加わります。
もちろん個人差はありますが、言語能力に優れているモロッコ人はすごいなぁと思います。




2018年5月29日