Maison de la chimieへ行こう

 記念すべき第一回は、「Maison de la chimieへ行こう」。僕には翻訳のセンスがないので、Maison de la chimieを日本語にどう訳すか分からず、インターネットで調べてみたら、化学会館と訳されていた。“化学会館”とは良い訳だと思う。というのも、Maison de la chimieとはパリにある、主に化学系の学会や学術会議の会場として使用される建物のことだからである。しかし、パリについてかなりマニアックな人かもしくは学会で訪れた人以外はMaison de la chimieについてまず知らないと思う。
 博士課程が終わろうとしていた2008年10月、僕はある学会でポスター発表をする機会があり、その学会の会場がMaison de la chimieだった。もちろんその時まで僕はMaison de la chimieのことは知らず、無機質な建物を勝手に想像していた。その学会には、所属していた研究室からは僕一人しか参加者がいなかったので、いざ学会の二日くらい前になって地図でMaison de la chimieがどこにあるかを調べてみて、ショックを受けた。何とMaison de la chimieはパリ7区の官庁街の中にあり、しかも道路を挟んで向かい側には、現在は国民議会の議事堂として使われているブルボン宮殿がある。しかも実際に行ってみると、官庁街だからか付近には背広を着たいかにもVIPっていう感じの人達をたくさん見かける。
 また、このMaison de la chimie、外部はまるで宮殿のような歴史的建造物、内部はまるでルーブル博物館のようである。ここでルーブル美術館と書いたのは、その内装もさることながら、そこには古い時代に使われたフラスコなどの化学実験器具が展示されていたからである。僕はポスター発表そっちのけで、「ああ、これはもしかしたらMoissanが使っていたフラスコかな」などと想像しつつ、あちこち見て回っていた。ちなみに、言い訳ではないが、僕だけでなく多くの学生がこの会場に感動して、みんなポスター会場を離れていろいろと見て回っていた。

 そこでふと思った事は、フランス人達は化学の学術会議のために(実際には100%そのためだけではないが)自分たちの母国の花の首都の中心に、このような建物を建てたのか、という事である。このことから、フランス人の化学に対する熱い想いが想像できる。しかしよく考えると日本でも、このMaison de la chimie にあたる日本化学会の化学会館は、東京の千代田区神田駿河台という超一等地にあり、化学に対しては日本人も熱い思いがあるのである。僕は“化学会館”という点で、日仏の新たな共通項を発見したような気がして、その時は変な自己満足に陥ってしまった。そして、そのおかげで学会にはまったく集中できなかった。しかし後になって指導教官から「学会はどうだった?」と聞かれて、正直に「Maison de la chimieに感動して、学会どころではありませんでした」と言ったら、「俺も昔、あそこに学会で行ったことがあるが、会場に感動して学会には集中できなかったよ」と笑いながら言っていた。

 パリと言えば、多くの人がまず訪れる場所は、凱旋門、エッフェル塔そしてルーブル美術館などだと思うが、化学好きの人なら絶対、Maison de la chimie がお勧めだ。アンバリッドに行く途中にあるので、そのついでにちょっと見るだけでもいい。“化学大国、フランス”を垣間見ることができる。ちなみに、中を見学できるかどうかは知りませんので、悪しからず。

 → Maison de la chimie 公式サイト(fr)
   文中で触れられている外観の画像などが掲載されています。