パイプオルガンを日常に~心揺さぶる音色~

弘前大学人文社会科学部多文化共生コース2年 諌山莉奈

水木順子さんは弘前市出身のパイプオルガニスト。東京藝術大学を卒業後、ヨーロッパでパイプオルガンの歴史や文化を学ばれました。現在は東奥義塾高等学校のパイプオルガン奏者、NHKカルチャーのフランス語講師、弘前大学の非常勤講師を務めています。パイプオルガンと歩む人生についてお伺いしました。

─パイプオルガンとの出会いはいつですか?
私は身の回りで聞こえた音をピアノで表現することが好きで、4歳からピアノを習い始め熱心に練習していました。10歳の頃に自宅のカセットテープで初めてバッハの演奏するパイプオルガンの音色を耳にしました。それまで聴き慣れていたピアノとは全く違う、不思議に響く音色に衝撃を受けパイプオルガンに心を惹かれました。その演奏に私は言葉で表せない宇宙のような壮大なイメージを抱き心を揺さぶられ、何度聴いても飽きることはありませんでした。当時聴いたパイプオルガンの音色は今でも心に深く残っており、自分の原点となる大切な記憶となっています。

─フランスでの留学生活はいかがでしたか?
日本はパイプオルガンにあまり馴染みがないため、留学前に触れる機会はほぼありませんでした。「よくわからないもの」「正解のない道」に飛び込み、未知なる世界を体験すべくパイプオルガンの浸透しているフランスへ留学することを決意しました。またパイプオルガンの歴史・文化をフランスで学びその楽器を自分の中で特別な存在から身近な存在に変化させる目的もありました。7、8年の留学生活は楽しいというよりも寧ろ辛く苦い生活が続きました。パイプオルガンを通して、本当にしたいことを見つけるための留学でしたが、現地の生活では清濁や新旧が混在するパリに惹かれた以上に、直感的に感じる「なにか」がそこにありました。

─パイプオルガンの魅力を教えてください。
パイプオルガンは人と同じようにそれぞれ性格があるように感じられ、大きさや音色、演奏される空間までも異なり同じものは1つもありません。だから新たな場所で出会ったパイプオルガンを演奏するときは、演奏に慣れるまでに時間がかかります。またパイプオルガンは国ごとにも個性があります。イタリアは豊かな音色、フランスは繊細な音色など微妙に違っています。異なる地域で長い年月を経て発展し創り上げられた音色は、地域の人々の趣向が反映されており、聴き比べると面白いですよ。日本のパイプオルガンの歴史は100年ほどと浅いですが、今後日本独自のオルガン音楽が確立するかもしれませんね。日本でのパイプオルガン演奏というと、一般的にコンサートホールで集中して聴くというイメージがあります。しかしフランスでは誰もが自由に出入りする教会で心を落ち着かせ礼拝をする中、いつもパイプオルガンを感じることができます。また誰もが自由に練習することもできます。パイプオルガンはフランスの人々の日常に溶け込んでいるのです。その感覚を日本でも味わえたら素敵だなと思います。私の演奏では空間に響く音から全身に伝わる波動によって、皆さんの心に何らかの感情を湧き起こすことができると嬉しいです。

取材後水木さんは東奥義塾高校のパイプオルガンで演奏を聴かせてくださいました。素敵な曲とともに、様々な表情の音色がパイプを通して全身に響き渡るのを実感しました。怖さを醸し出しながらも美しく迫力のある音色を出すパイプオルガンに、すっかり魅了されてしまいました。日本であまり馴染みのないパイプオルガンですが、その音色は何にも代えがたいものです。皆さんも水木さんの演奏を聴き、パイプオルガンの世界へ足を踏み入れてみませんか。