弘前大学人文社会科学部社会行動コース2年 鎌田翔至
代官町は“Antique”や“Brocante”を扱う店が多い。古家具を客席としている店がある。それが「la saison」だ。店内には、個性のある古家具たちが客席になっている。同じ椅子はほとんど見られない。ミシン台をテーブルに見立てるといった遊び心も見られる。
私たちが取材に行った際に店内には、談笑するご婦人、制服で勉強する高校生、窓際でパソコンを開くスーツ姿の男性などそれぞれが心地よく、それぞれの作業に没頭していた。私はこのような場を、多様な価値観を受け入れることのできる豊かな場所だと思う。古家具たちがこのような雰囲気をつくり出すことに一役買っていることは確かだろう。
「la saison」は、喫茶店に分類されると思われる。「思われる」と表現するのは、「la saison」が様々な機能を有しているからである。喫茶店でありながら、店舗のおおよそ1/3は雑貨を並べている。さらに、右奥はギャラリースペース、左奥はイベントスペースとなっている。雑貨が並ぶ棚や、イベントスペースの椅子にも古家具が用いられている。このように多くの機能を有していることも、様々なひとに開けた場所としての「la saison」を象徴していると捉えることもできるのではないだろうか。
写真のカラフルな椅子を見てほしい。この椅子は店長さんが手作りしているものだ。3本脚ながら、大人でも座ることのできる安定感。カラフルな色は見ているだけで楽しく、手ざわりはなめらかで、作り手の丁寧さがわかる。子どもたちのことを考えるひとが作ったものだとわかる。古家具のなかに並ぶ手作りの椅子が、これから子ども部屋で古家具になっていくことに想いを馳せる。古家具の魅力はそれぞれに過去があることだと感じる。
そもそも“Antique“や“Brocante“は今のフランス人にとって、どういったものなのだろうか。「ものを愛し、長く大切に使う」という文化は本当に根付いているのか。フランス人留学生のギヨーム・ラヤシーさんにインタビューを行った。 ギヨームさんのインタビューを通じて感じた、“Antique”と“Brocante”のイメージがふたつある。
ひとつめは、“Brocante”は古道具のみを示す言葉でないということだ。“Brocante”は、古道具を扱うフリーマーケットを指す言葉でもある。“Brocante”とはフリーマーケットとしての“Brocante”で扱われたものが全て“Brocante”と呼ばれるようになるのではないかとも思われる。
ふたつめは、“Antique”や“Brocante”は非常に身近なものだということである。私たちは“Antique”や“Brocante”どこか崇高な存在理由を求めている節がある。その古家具の背景や、歴史を考えることは非常に趣深い。しかし、ギヨームさんの語りからは、「かっこいい、美しいから欲しい」や「要らないから(“Brocante”で)売る」という、ドライにも思える「もの」への認識の片鱗が見えた。私たちは、これを「ものを愛し、長く大切に使う」文化がなくなってしまったとは考えない。この語りからは、自分が本当に好きだと思えるものを持ち続けるという、一見シンプルにも思える理念がある。私たちがつい考えてしまう存在理由は、「私がそれを好きだから」という単純かつ強力な、自分だけの理由があれば十分なのだ。
最後に、コラム執筆にあたってわかったことは、弘前には“Antique”や“Brocante”の文脈が確実に存在するということだ。専門店だけではない、「珈琲のまち弘前」で長年、営業を続けてきた喫茶店の家具たちも十分“Antique”もしくはヴィンテージと言えるだろう。「視点を変える」、それだけで私たちの弘前はもっと魅力的に変わる。このコラムで伝わってほしいのはこの一点に尽きる。“Antique”や“Brocante”だけでなく、あなたにとっての弘前に気づくきっかけにこの記事があれば幸いである。